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名児耶秀美|日本人デザイナーの力を経済の基盤に乗せて「商品化」する方法【前編】

デザイナーのメッセージを製品とパッケージで伝えたい!

2017.01.25

生活用品を扱うメーカーでデザインが大事にされていない現実に疑問をもち、デザイナーのメッセージを伝えるモノづくりを行うために起業した。第一弾の商品はMoMAで販売され、直営店もオープン。海外での店舗展開もはじまる―—。

アッシュコンセプト 名児耶秀美

アッシュコンセプト 名児耶秀美

1958年東京都生まれ。武蔵野美術大造形学部在学中にデンマーク人デザイナーのペア・シュメルシュア氏に師事。高島屋宣伝部を経てマーナに入社し、2002年にアッシュコンセプトを設立して独立。生活者とデザイナーがともに楽しめるモノづくりをテーマに、デザイナーブランド「+d」を発信、世界で販売する。2012年には地元・蔵前に直営店の「KONCENT」をオープン。オーストラリアやマレーシアなど、海外にも店を構える。

Paragraph 01

デザイナーの名前や顔が出ないことに疑問を感じた

動物のカタチをしたカラフルな輪ゴム「アニマルラバーバンド」(デザイナー:パスキーデザイン)、水たまりにできる水はねをデザインした傘立て「スプラッシュ」(デザイナー:浅野泰弘)、カップラーメンのフタを押さえる人形のフィギュア「カップメン」(デザイナー:馬渕晃)−−。アッシュコンセプトが手掛ける「+d(プラスディー)」の製品は、キャッチーかつポップで、手にとって触れてみたくなるユーモアがある。ここで紹介するのは、デザインを活用して世の中を元気にする会社、アッシュコンセプトを立ち上げた名児耶秀美さんの物語だ。

「日本では企業のデザインが大きな評価を得ても、デザイナーの名前が出ることは少ない。そこに疑問を感じたんです」

これが、名児耶さんがアッシュコンセプトを立ち上げた動機。そこに至るまでは紆余曲折があった……。

名児耶さんは武蔵野美術大学で空間演出を学んだ後に、高島屋の宣伝部を経て、マーナに入社する。マーナとは、明治時代にブラシの製造からスタートした140年以上続く老舗メーカーだ。同時に、名児耶さんの父親が経営する会社でもあった。次男の名児耶さんは、家業は継がないという話だったが、父親が病で倒れたため、急遽、家業を手伝うことになる。

「マーナに入って驚きましたよ。『えっ、こんなに売上が小さかったの?』って。どれも製品の品質はいいのに、時代の流行と合わないモノを作っていたんです。百貨店の売り場を見に行くと、いちばん隅のホコリが溜まっているような場所にうちのブラシが置かれていて。『こんな所に置かれて可哀相だよな〜』と思って。これはやり方を変えなきゃダメだと思ったんです」

まず名児耶さんが行ったのが、これまで学んだデザインを生かしてマーナの製品をブラッシュアップすること。自らがデザインを担当し、人が足りなくなるとスタッフを集め、社外のデザイナーにも依頼した。そうすることで、「メーカーが作りたいモノ」から「ユーザーが欲しいモノ」づくりへと変えて行ったのだ。さらに、高島屋時代の人脈を生かして美しいカタログを作り、展示会で斬新なディスプレイを行った。

こうした努力の甲斐があり、マーナの製品はセブンイレブンやイトーヨーカドー、ダイエーなどの量販店に置かれるようになり、売り上げは急増。同社は家庭用品全般を扱うメーカーにまで成長した。

そして、冒頭の疑問が浮かぶ。

「日本では大手企業のデザインが大きな評価を得ても、デザイナーの名前や顔が出ることは少ない。マーナも同じで、ひとつの企業をここまで変えたのはあきらかにデザインの力なのに、企業はデザインやデザイナーをそれほど大切に考えていないと感じたんです」

デザイナー

ロングセラー傘立て「SPLASH」(スプラッシュ)」、ラブ&ピースガンほか、芸術としてのプロダクトを多数デザイン

1953年埼玉県川口市生まれ。ミラノ・ドムスアカデミー修士課程卒。プロダクトデザインを中心に、インテリア、グラフィック、パッケージと多岐に渡り活動。富山プロダクトデザインコンペグランプリ、グッドデザイン賞他入賞歴多数。モンゴルの遊牧民住居ゲルを事務所に持ち込み、宇宙の摂理を拠り所に芸術としてのデザイン活動をつづけている。

浅野泰弘

浅野泰弘

浅野デザイン研究所
http://www1.nisiq.net/~asano/

主な実績 : 傘立て「SPLASH」(スプラッシュ)」、多摩美術大学/桑沢デザイン研究所非常勤講師

得意な分野:ライフスタイル
得意なエリア:特定せず
受賞歴:傘立て「SPLASH」(スプラッシュ)」グッドデザイン賞受賞<2003>、富士プロダクトデザインコンペ グランプリ受賞<1997>ほか

東京都品川区五反田8-8-16 高砂ビル704
TEL 03-3490-8681
FAX 03-3490-8681

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事業者

オリジナルブランド「+d」が世界で高評価、デザインの力で世の中を元気にする会社

デザインで世の中を元気にする会社。オリジナルのデザイナーブランド「+d」を発信し、世界で高い評価を得るほか、ブランド丸ごとデザインするコンサルティングも手がける。2012年、地元・蔵前に直営店の「KONCENT」をオープン。オーストラリアやマレーシアなど、海外にも店を構える。

アッシュコンセプト株式会社

日本・東京
住所:東京都台東区蔵前2-4-5
TEL 03-3862-6011
http://h-concept.jp/

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Paragraph 02

0から1を生むのがデザイナー、1を掛け算して100にも1万にもするのが我々の役割

例えば、大手メーカーのボールペンやキッチンツールなどは、いかに優れた製品であっても、アノニマス・デザイン(匿名性なデザイン)だからデザイナーの名前や顔が出ることはない。そこに違和感を感じた。

「私は社内も社外も含めてデザイナーが作ったモノを発表するときに、『誰々がデザインしたんだよ』って伝えたかったんです。でも、それを会社でやろうとすると、『なぜノウハウをオープンにするんだ、それは企業秘密だろう』って反対されて。えっ、そんなの秘密じゃないよと思って」

デザイナーの名前や顔、考え方がきちんと伝えるモノづくりのプロジェクトを仕掛けたい。そんな想いからマーナを退社し、アッシュコンセプトを立ち上げた。2002年のことである。起業にあたり、自分の役割は明確に意識していた。

「デザインというと、カタチを作るイメージがありますが、それだけではなくて経済という基盤の上で行うクリエイションでもあります。この経済に乗せてデザインの仕組みを作っていく部分が、実は多くのデザイナーに欠けている要素。だったら、自分がそこのデザインをやろうと思ったんです。デザイナーの仕事は『0から1を生む』ことで、私の仕事は『1を100や10,000にする』こと。これはどちらもデザインです」

高島屋で宣伝を学び、マーナで経営はもちろん、商品のデザインから製造、PRから販売までを経験した名児耶さんだからこそ、見出すことができた視点である。こうして、デザイナーのメッセージをカタチにして世界に届ける「+d(プラスディー)」というブランドが立ち上がり、第一弾の商品が生まれる。

Paragraph 03

使い捨てに出来ない! 動物の輪ゴムを商品化

初の商品はパスキーデザインによるウマやヒツジなど可愛らしい動物のカタチをカラフルな輪ゴム、「アニマルラバーバンド」である。

「いま輪ゴムって100個入りで100円とかで売られているでしょう。で、輪ゴムが落ちていても拾う人なんていない。つまり、輪ゴムは使い捨て文化を代表するプロダクトなんです。それを動物のカタチにデザインすることで、誰も使い捨てにしないし、大事にしたくなるでしょう」

「アニマルラバーバンド」は、企業のデザインコンペで入賞していたが、製造が難しく商品化には至らなかった作品だった。すでに完成したデザインだと思っていた輪ゴムがデザインで生まれ変わったことに感銘を受けた名児耶さんは、デザインしたパスキーデザインに会い、製品化を前提に話を進めたのだ。

製品だけではなく、最適なパッケージも考えた。説明書には「よじれても2~3回ぴんぴんと引っ張ると元気になるよ」「友だちだから食べないで」などと、つい読みたくなるような言葉が書かれている。

「いいデザインって命令形じゃないんですよ。普通の説明書は『誤飲注意!』とか『強く引っぱらないでください!』とか書かれていて、読みたいとも思わないでしょう。英語もこのとおりに訳してありますが、未だに苦情や事故は一件もありません」

パッケージの裏にはさり気なくデザイナーの顔写真や考えを明記した。作り手の顔が見えることで信頼感が増し、デザインのニュアンスも伝わると考えたのだ。

「パスキーデザインさんに商品をどこに売りたいかって聞いたら、『MoMA(ニューヨーク近代美術館)』って言われて。『会社作ったばっかりでMoMAに知り合いいないよ(笑)』なんて、言っていたけど、NYに知り合いがいることを思い出して。彼に『面白いものができたから見てくれ』って電話をして、すぐに現地に行ったんです。そしたら向こうは『なんだ輪ゴムのために飛行機に乗って来たのか!』って大笑いしてくれて(笑)」

その知人の協力を得て、NYの「アクセント・オン・デザイン」という展示会に出展。そこにMoMAのバイヤーが訪れて、商品を見、裏の説明書きを読むとニヤリと笑い、なんとその場で「アニマルラバーバンド」をオーダーしたのだ。ブランドを立ち上げて、最初の商品がMoMAで販売。まさにシンデレラストーリーだが、これは電話1本でNYまで足を運んだ名児耶さんの行動力があったからこそ実現したことだ。

ミュージアム

世界中のグッドデザインを厳選するニューヨーク現代美術館「MoMA」のデザインストア

「MoMA」の愛称で親しまれるモダンアートの殿堂、ニューヨーク近代美術館のデザインストア。最新の素材や製造方法、デザインコンセプトにおいて秀逸なプロダクトを世界中からキュレーションする。日本では表参道に「MoMA Design Store 表参道」を構える。

MoMA Design Store

https://store.moma.org/

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見本市

「NY NOW」でもバイヤーが必ず足を運ぶとされる特別なセクション

ニューヨーク最大のギフト、ライフスタイル関連の見本市「NY NOW」の中でも、注目度が高い特別なセクションが「Accent on Design」。現代デザインの委員会による厳正な審査を合格した出展者のみが出展を許される。バイヤーが真っ先に訪れ、商談成立の確度が高いと言われる。

Accent on Design

アメリカ・ニューヨーク
開催:毎年1〜2月、8月
http://www.nynow.com/home/accent-on-design-2/

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Paragraph 04

商品化したいけど、実現していないアイデアに目を向ける

最高のスタートを切った「+d」。これによりブランドイメージは明確になり、日本での取り引きはMoMAの“黒船効果”によって着実に決まっていく。もちろん、取引先にはこだわりがあった。

「僕らは愛情をもって売ってもらえる人に販売してもらいたいので、量販店との付き合いはしませんでした。大量に作って安く売るという商売はマーナ時代にさんざん経験したのですが、手間もかかるし、利益はあまり残りませんよね」

これまで営業に行くと、「もっと安くしてくれ」と言われることが多かった。だが、「アニマルラバーバンド」のディスカウントを求める声は皆無。普通の輪ゴムの20〜50倍の値段がするにも関わらず、「売って欲しい」と言われたほど。あらためて、デザインのもつポテンシャルを知ることとなる。

また、アッシュコンセプトの立ち上げ当初は、「蔵前デザイン会議」と称して、定期的にデザイナーに集まってもらいディスカッションを行った。そして、まだ世に出ていない試作品を前にわいわいがやがやと談義を進めて、商品化を検討した。

その傍ら、名児耶さんは学生の卒業制作などを見に行き、若い才能を探した。喜怒哀楽を表現した「カオマル」は、東京藝術大学の学生だった吉田磨希子さんの卒業制作が基になっているし、バナナのカタチをしたドアストッパー「バナナドアストッパー」は、多摩美術大学でワークショップを行ったときに参加していた学生の大庭崇さんのアイデアだ。

「世の中には商品化したいけどできていないアイデアがたくさんあります。デザイナーもこれを作りたくても、作ってくれるメーカーが見つからないというケースが多いんです」

名児耶さんはデザイナーのアイデアと製品化をつないで、数多くの商品を発売。その噂が広がり、いつしかアッシュコンセプトは若手デザイナーの“駆け込み寺状態”に。常に新しいデザインやアイデアが持ち込まれるようになっていた。

そんななか、100万個を売り上げるヒット作も生まれた。カップラーメンにお湯を注いだ後のフタを押さえるフィギュア、「カップメン」である。シュールなそのフォルムもさることながら、熱に反応して白く変色するのも面白い。

「『カップメン』はリーマンショックの直後に生まれた商品です。デザイナーの馬渕晃さんにいろんなデザインのアイデアを見せてもらったときに、いちばんくだらなかったのがこれ(笑)。でも『くだらないから、それ作ろうよ!』って。みんな不景気だからって、真面目になって普通のモノしかつくらないから、俺たちだけはくだらないものを作ろうってね。しかも、発売の半年前に、『これだけじゃつまんない』と思って、熱で色が変わる特殊な顔料を練り込んで“やけど”するようにしたんです。半年くらい発売が伸びたけど、ここまでやりこんだことをユーザーに面白がってもらえました」

Paragraph 05

直営店をオープンしてデザインの出口を作る

「カップメン」のヒットをはじめ、「+d」は勢力的に商品をリリースし、いつかアイテム数は100を超えていた。デザインコンサルティングの商品も増え、そんななか、2012年に直営店となる「KONCENT(コンセント)」を蔵前にオープンする。

「産地の方と対話するなかで、いい商品を作って海外に売りたいと思っていても、実は隣の人にさえ商品を使ってもらえていない、という状況を目の当たりにすることが多くて。そんなときは『まずは足下を固めて、日本国内で売ってから、それを世界にもっていけばいい』とアドバイスをしていたんですが、ふと……自分たちはどうだろう? と考えたんです」

実は「+d」はブランド創業の2002年から海外への展示会に出展し、欧米での販路を拡大していた。そして、自分たちも海外に目を向けているが、地元を応援できていなかったことに気づいたという。

同時に、商品を卸してお店に販売してもらうだけでなく、商品を作った理由やその良さを、自分たちできちんと伝えながら販売したいという想いも生まれていた。それは自分たちでデザインの出口を作ることでもある。こうして、名児耶さんの地元である蔵前に「KONCENT」が誕生した。これを皮切りに、渋谷や湘南、国立の商業施設などにも出店。いよいよ、海外での店舗展開に舵を切る−−。

セレクトショップ

海外にも展開するデザイナーブランド「+d」の直営店「KONCENT(コンセント)」

2012年に蔵前にオープンした、デザイン雑貨の企画・販売を手がけるアッシュコンセプトの直営店の「KONCENT(コンセント)」。デザイナーズブランド「+d」を中心に、気の利いたデザインプロダクトを揃える。国内では蔵前のほか、し「湘南T-SITE」、国立、渋谷、海外ではオーストラリア・メルボルン、マレーシア・クアラルンプールにも。

KONCENT(コンセント)

日本・蔵前
住所:東京都台東区蔵前2-4-5 1F

日本・湘南
住所:神奈川県藤沢市辻堂元町6-20-1 湘南T-SITE 1号館2階

日本・国立
住所:東京都国立市北1-14-1 nonowa国立EAST

日本・渋谷
住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1 Bunkamura 1階

オーストラリア・メルボルン
住所:270 a, Coventry Street,South Melbourne,Victoria 3205 Australia

マレーシア・クアラルンプール
住所:SunwayMas Commercial Centre,47301 Petaling Jaya, Selangor, Malaysia

http://koncent.net/

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Paragraph 06

価格をコントロールするために海外に出店する

海外に店を作る動機は意外なものであった。

「日本だけで売れていても井の中の蛙になるから、世界に認められるモノづくりをしたいと思って、これまでにヨーロッパやアメリカのディストリビューターと組んでいろんな販売システムを作ってきました。でも、そこまでの金額にはならない。『海外で売ると値段が高くなる』という根本的な問題があるからです」

ディストリビューターを通して海外で流通・販売を行うと、どうしても倍に近い価格になるという。

「どうやったら海外で値段を安くして販売できるのかを考えていて、ふと世界で成功している日本人は何をしているのだろうと思ったんです。無印良品? ユニクロ? ブランド展開で成功しているところは、全部自分たちで売っているんですよ。つまり、自分たちで売ることで海外でも価格をコントロールしているんです」

ひとつの仮説を立てた。各国に1店舗ずつ「KONCENT」があって、そこでしか「+d」の商品を売らない。そうすれば値段をコントロールできるんじゃないかと。こうして、卸先が少なかったオーストラリア、マレーシア、台湾への出店が実現する。海外で価格をコントロールする試みは、始まったばかりだが、売り上げは着実に上がっているという。

マレーシアの首都クアラルンプールから車でおよそ20分の街、プタリンジャヤにあるKONCENT Malaysia

台湾北部の大都市、台北にあるアジア第1号店舗「KONCENT Taipei」

さて、ここまでお伝えしたように、2002年の創業から成長してきたアッシュコンセプトと「+d」。今後のビジョンはいかに?

「2017年は会社を立ち上げて15年になるので、デザインキャラバンや15周年記念のデザインコンペを行います。これにはデザイナーや学生など、あらゆる人に参加してもらいたいと思っています。企業や工場、デザイナーなどいろんな人に助けられ、気がつけば仲間が増えていました。今後は皆と成長して行かないといけないので、自分たちでコンペをやろうと思ったのです」

デザイン・ベンチャーとして成功し、海外まで販路を広げても、原点は変わらなかった。それは「デザイナーのメッセージを世に伝えながら商品を売りたい」という想い。さらに、まだ世に出ていないデザイナーにチャンスを与えて、一緒に商品を作りあげることなのだ。
<デザインを活用して世の中を元気にしたい>

デザイナーとユーザーをつなぐ、名児耶 秀美さんの挑戦はこれからも続く−−。


TEXT:藤井たかの
PHOTO:岩本良介

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