2017.03.22
ゼロからの海外進出。まずは本気のマインドセットから。そしてずっとそれを維持し続けること。
海外販路開拓を目指す中小企業に必要な心構えとは……
生産者の思いと生活者の気分をつなぎ、日本のものづくりを、その想いごと世界に伝える。
すでにあるものを整理し、新たな価値を生み出すー
カリスマバイヤー・山田 遊さんに聞く、日本のメーカーが海外進出するとき、どう考えるべきか。
2017.03.22
海外販路開拓を目指す中小企業に必要な心構えとは……
生産者の思いと生活者の気分をつなぎ、日本のものづくりを、その想いごと世界に伝える。
すでにあるものを整理し、新たな価値を生み出すー
カリスマバイヤー・山田 遊さんに聞く、日本のメーカーが海外進出するとき、どう考えるべきか。
株式会社メソッド代表取締役
イデーのバイヤーを経て、2007年に「method」を設立。『Tokyo’s Tokyo』や『国立新美術館』ミュージアムショップなどのバイイングだけでなく、『燕三条 工場の祭典』などのイベントを企画・立案し、商業施設のプランニングも。著作に『デザインとセンスで売れる ショップ成功のメソッド』(誠文堂新光社)
Paragraph 01
フリーランスのバイヤーとして「新しい東京土産」を標榜する羽田空港の『Tokyo’s Tokyo』や新国立美術館のミュージアムショップなどを手がける。買いつけるだけでなく、自らものづくりにも関与し、さらにはショップやイベントのディレクションにも活躍する。モノに対する尋常ならざるこだわりと慧眼を持ち、国内外のマーケットやシーンに精通している。また、『燕三条 工場の祭典』の生みの親でもある。金属加工業が有名なこの町の、さまざまな工場を一般に開放。最高の技術によるものづくりの現場を多くの人々が見学し、実際に体験もできるフェスだ。
ものの生まれる場所と、それを使う生活者を非常にユニークなかたちでつなぎ、日本と海外もうまくつないでいる。そんな山田遊さんに、極めて素直に聞いてみた。
日本のメーカーが海外進出するためにはどうしたらいいんでしょう?
*1
東京をテーマにしたエディトリアルショップ。羽田空港店は「東京発の旅」がキーワード、原宿店は「漫画とアニメ」をキーワードに数多くのライフスタイル雑貨を取り扱う。
Tokyo’s Tokyo
Tokyo’s Tokyo 羽田空港店
住所:羽田空港第2旅客ターミナル3F マーケットプレイス4
*2
金属加工の産地、新潟県燕三条地域とその周辺地域で開催されるイベント。名だたる工場が、一斉に工場を開放し、工場でのものづくり体感を提供する。2013年にスタートし、年々注目度が高まり、規模・内容も発展している。
燕三条 工場の祭典
日本・新潟
会場:新潟県三条市・燕市全域、及び周辺地域
開催:毎年
http://kouba-fes.jp/
Paragraph 02
-日本のメーカーがゼロベースから海外に進出しようとするとき、まず最初に何が必要だと思われますか? 「何より大切なのは、そこにきちんとした意義があることです。進出する先に何らかのメリットを提供したいと考えるのが普通なんですよ。たとえば、自分たちの技術の素晴らしさを伝えて、共感してもらって違う文化の中に取り込んでもらいたい、とか。そうしたものが根底にあってこそ。“何となく儲かりそうだから”じゃダメです」 -それは特に外的要因とは関係なく各々のメーカーさんのレベルで設定できる部分ですよね。 「ええ、でも容易くはないですよ。自社の製品を輸出して事業で売り上げを成すって相当困難です。言葉も文化も違うし、国内で売るより障壁ははるかに高い。それでMORE THAN PROJECTなりJETROなりがあって、補助を得て行くんでしょうけど、費用対効果はなかなか出ないでしょう。しかも中小企業レベルのものづくりだったら、継続は至難の技です」 ーただ、国内での売り上げに限界が見えている場合、海外というのはやはり一つの選択肢ですよね? 「その考え方は、甘いと思いますよ。それって相手が海外のショップやバイヤーだというだけで、“わが社は最近売り上げが厳しいから買ってください”って言ってるようなものでしょ? 国内で普通、そんなビジネスの仕方しないでしょう(笑)。困ってるからって買ってくれることなんてないですよ」 -つまり、山田さんはあまり海外進出は勧めない、というスタンスですか? 「いえ、それだけの覚悟はありますか、と言いたいんです(笑)。ビジネスをしに行くマインドがありますか? コミュニケーションするマインドはありますか? 英語がヘタでも話せますか? っていうことを言いたいんですよ。実際、旅行気分で行ってる人もたくさんいます。“日本でダメな商品も海外に持って行って当たればラッキー”なんて考えてる人もいます。それはビジネスじゃなくギャンブルですよ(笑)。海外に出て行くのは相当なことなので、そもそものマインドセットがきちんとできているかどうか。ここを問いたいんですね。今、海外でやれている人たちはみんな、それができている人たちです」
Paragraph 03
-日本のものづくり自体は海外で支持されてるんですか? 「総体として評価はされていると思います。その本質は、僕は細やかさだと考えています。日本のマーケットって非常に特殊なんですよ。顧客からの要求もバイヤーからの要求も非常に高くて、ちょっとした傷も一切許されなくて(笑)。そういう厳しい環境のなかで要求に応え続けてきた。品質管理の徹底とか、ものとして気のきいたつくりであるとか、高い技術とか器用さが日本的なよさだと思っています。でも、それをただ持っていくだけでは売れません」 -何が必要ですか? 「製品単体ではなく、トータルの提案ですね。いくらそのモノが良くても、それだけでは売れません。ディスプレイや接客、POPでのコミュニケーションを通じて、その製品がどういうものであり、自分たちの技術のどこが優れ、どんなブランド力があるのかということを全力で伝えないといけません」 -日本ならではの器用さや細やかさ、気の利いてる感もコミュニケーションに落とし込まれてる必要がある。 「重要だと思います。“ここまで考えて手を入れてものづくりしてるんだ!”が伝わらないと、そもそも持って行っている意味がありません。ただメーカーの方は、当たり前に製品を作り続けているのでそういうストロングポイントに気づいていないケースも多いですね。だからこそMORE THAN PROJECTがあり、プロデューサーたちがいると認識しています」
Paragraph 04
-そういう外部視点は重要ですね。 「僕の意見はさらに簡単です。“とにかく聞けば?”と。製品ができたから売り込むのではなく、できる前に、まずいろんな人の意見を聞いてみることが大事だと思います。うちにも取引しているたくさんのメーカーさんが来ますが、ほぼ売り込みではなく相談です。製品として完成したものを目の前に置かれると、こちらの答えは二択でしかありません。そしてほとんどが“NO”になります。物はいいけど値段が違うとか、色展開やサイズ展開に問題があるとか……その辺りのことに議論の余地があれば、相談しながら変えていけますよね?」 -余白をもたせた状態で商談、というか相談に臨めと。勝手なイメージですが、技術や製品に自信のあるメーカーさんほど、そこを決め込みがちじゃないですか? 「ガチです。ガッチガチです(笑)。でも、一方的すぎる思いは伝わらないですよね。海外進出とか肩に力入れなくても、異性へのアプローチと考えたらわかりやすいじゃないですか。ビジネスビジネスっていう前に人との関係性の作り方を忘れがちじゃない? と言いたいですね。いいから俺についてこいってだけじゃ口説けないじゃないですか(笑)。逆に、何にもしないで相手から一方的に惚れられるケースなんてほとんどないでしょ?」 -非常に明快ですね。それを踏まえたうえで、例えば、相手に好きになってもらうために今日からでもできるようなことは何かありますか? 「(苦笑)。そういう近道を探してる時点でアウトです。繰り返しになりますがチャンスはたくさんあります。日本のきちんとした製品が、きちんとトータルで伝えられれば積極的に否定されることはないと思いますし、そもそも中小企業のものづくりの輸出は進んでないので、海外にも扱いたい人たちはたくさんいるでしょう」 -今は海外に日本人が増えていますし、昔よりも日本のクリエイティブが受け入れられていると思うのですが、そうした環境の変化は、海外進出に際してはプラスに働きますよね? 「それはそう思います。あとはコミュニケーションとコミュニティをどう見出していくかっていうところだと思います。あ、でもね……」
Paragraph 05
-はい?
「数年前から、うちに海外からの問い合わせが増えて、雑誌に掲載されたりメディアで取り上げる機会が多くなったんですけど、何故だと思います?」
-それは世界的にご活躍だから?
「ウェブサイトをリニューアルしたんです。すごくわかりやすいんですけど、それぞれのページの文章を、英語を先にして日本語を後にしたんです。大きくはそれだけ。言葉として入りやすいんでしょうね。実はデンマークの友達に言われたんですよ。僕、SNSでも英語と日本語両方で投稿してたんですけど、“日本語が先だと見る気がしない”って。で、ゴメンナサイって直しました」
-はい?
「数年前から、うちに海外からの問い合わせが増えて、雑誌に掲載されたりメディアで取り上げる機会が多くなったんですけど、何故だと思います?」
-それは世界的にご活躍だから?
-それはメーカーさんのゼロベースからの第一歩としてはいいかもしれませんね。
「何度も言ってますが、出て行くのは非常に大変だと思います。今、僕はどちらかというと“引き込む”ということに重きを置いています。世界中から日本に来る人が増えているわけですから、来てもらって買ってもらったって、それもまた輸出じゃないかと」
-山田さんが監修されている工場の祭典も、あのエリアに来てもらうということですよね?
「あれは新潟県の燕三条というエリアですけど、出て行かなくても、自分たちのものづくりのこだわりや輝いている部分を見せることができる。自分たちの土俵でコミュニケーションしてる強みがあると思います。今僕がしゃべってきたような部分がずいぶん鍛えられることになってると思いますよ」
-まさに工場のその現場を見るってことは一般の人にはなかなかできない経験ですもんね?
「やはりコミュニケーションだと思います。僕ね、売り場で難しさを痛感したことがあるんです。例えばバイヤーとしてものづくりの現場に行って、そのプロダクトの生まれる背景とか細やかさとか職人さんの熱気みたいなものに感動する。で、買いつけるわけですけど、バイヤーが感じた要素が、売り場の現場に、お客様にっていう伝言ゲームを経るうちに薄まっていくんです。それがもったいないっていつも思っていて。百貨店が職人さんを呼ぶ実演販売というかたちで補ってきたことを、工場の祭典は、面倒なので現場でやってしまえっていう発想です(笑)」「ウェブサイトをリニューアルしたんです。すごくわかりやすいんですけど、それぞれのページの文章を、英語を先にして日本語を後にしたんです。大きくはそれだけ。言葉として入りやすいんでしょうね。実はデンマークの友達に言われたんですよ。僕、SNSでも英語と日本語両方で投稿してたんですけど、“日本語が先だと見る気がしない”って。で、ゴメンナサイって直しました」
*1
「花火のセレクトショップ」をコンセプトに、山田遊(method)、村上純司(method)、加藤智啓(EDING:POST)の3名で立ち上げた、花火のブランド。コンビニやスーパーでセット売りされている花火を、編集的視点で新たにパッケージし、遊び方、遊び場までトータルで提供している。
fireworks
Paragraph 06
-ものづくりの現場ではそこで作るモノがどう使われるかっていうゴールをイメージしてますよね? 山田さんがバイイングされる際は、それに乗っ取ることが多いですか? あるいは独自に解釈を加えてある種キュレーションみたいなことをされます? 「モノ自体でコミュニケートできる製品が多いですね。どんな人に売ってどう使われるかをイメージするにはメーカーさんも情報を集めないといけないし、さっきも言いましたけど“聞く”ということをしなければなりません。僕もものづくりすることがあるんですけど……」 -ええ。 「その出口のところがきちんとしていないものを整えるケースが多いですね。たとえば、『fireworks』。花火って、コンビニとかスーパーでまとめ売りされてるじゃないですか。あれが謎だったんですよね。色々な花火が入っているのに、どれがどんな風に燃えるかなんの説明もない。手持ち花火とか、火をつけてみて“はーこうなるのか”って初めてわかる。ラストに置いておいた吹き出し花火が意外にしょぼくてがっかりしたりする経験ないですか?(笑) 全然気が利いてない。それを先回りしたのが『fireworks』です。ジャケ買いしてきた花火をひたすら燃やして、色展開とか、誰とどこでやるのに適してるのかとか、説明を加えて分類した」
Paragraph 07
-山田さんご自身が興味を持っておられたり、可能性があると考えられているような日本の商材などはありますか?
「実は、お茶を作ってます。お茶ってね、消費者視点に立って見れば見るほど分からないんです。分かります? 普通に“深蒸し煎茶”っていいますけど、それ何? 玉露って高級イメージですけど、何で高級なの?棒茶って何の棒?ほうじ茶って??っていう(笑)。業界の中だけで勝手に決まっている言語で、お客さんがわからないことにも配慮せずコミュニケーションしてきた結果がこれなんです。雑なんですよね。日本人だと思えないぐらい雑だなあと」
-花火に近いものがありますね。
「そうなんです。それを丹念に丹念に紐解いていきました。大変でしたよ(笑)。そこだけですごく驚きがあったので、それを伝えていくだけでたぶん価値があると思っています。で、今回、この過程で台湾の友達に言われて愕然としたことがあったんです。まず日本のペットボトルのお茶って三番茶とか四番茶なんですね。良いものは最初に葉をつける一番茶で、二番茶三番茶と徐々に旨味や香りが失われていく。中国・台湾での権力者は最高級の茶葉と茶器で、最高の入れ方をしたお茶を飲みながら政治を語るそうです。台湾の友だち曰く“キミたちの国会ってペットボトルだろ?”って(笑)」
-その通りですね!
「だからじゃないんですけど、サードウェーブのコーヒーブームの後はお茶だと踏んでいます。かつてインスタントだったコーヒーをちゃんと多くの人がドリップするようになったのとおなじように、日本茶をちゃんと飲むような社会が来たらいいなと考えています。それがマジョリティになるとは思わないけど、ちょっとは変わるかも。小さい茶園ぐらいは救われるかもしれない。そんなことを考えてます」
PHOTO:岩本良介