箔アクセサリーのHAQUAと備前焼のhiiroは、一見するとまったく異なるプロダクト。しかし、生まれたプロセスを見ると、辰野さんのアプローチは共通していることがわかる。HAQUAは水に強い箔素材の特質を、hiiroは水をまろやかにする備前焼の機能性を生かしているが、いずれも根本的な強みの部分であり、それを引き出すプロダクトとしてデザインされているのである。
「本質的な目的を達成できるデザインでありたいと思っていますので、問題の本質をできるだけ探ったうえで、長所を生かすことを心がけています」
そうデザイナーとしてのスタンスを語る辰野さん。だから、HAQUAがそうだったように、依頼された内容を受け止めたうえで、アレンジした提案をすることも少なくない。
「たとえば、なんとなくアクセサリーが作りたいというお話をたくさんいただくのですが、それで本当に課題が解決できるのかをお聞きしていくと、実はそうでもなかったとおっしゃる会社さんは多いんです。『こういうモノを作ったほうが、結果的に目指していることにつながるのでは?』というふうに、何をしたら本質的な課題解決につながるかを考えて、造形もそれに合わせた形にできるように力を注いでいます」
この辰野さんのスタンスの基礎にあるのは、「社会に貢献したい」という思い。とりわけ、地場の伝統工芸品を守りたいという考えは、イギリス留学時代に培われたと振り返る。
「向こうの人に聞かれたとき答えられるよう、留学前に日本のモノづくりについてある程度学んでいました。伝統工芸の現場で、職人さんの常に技術向上を目指す誠実な姿勢にも触れ、感銘を受けていたんです。それに加え、時間通りに来る電車や、公共施設の清潔さを始めとする日本の普通が世界では異常なほどにきちんとしているなど、元々持っている持ち味に気づくことで、より日本の伝統工芸の凄みを感じたんです」
しかし、「すごく誇れる」はずの日本の伝統工芸は、衰退の一途をたどっているのが現実。「海外にいて日本に元気がないと、自分も元気がなくなる」と語る辰野さんにとって、伝統工芸に活気をもたらすのはある意味で自分のためでもあった。プロダクトデザインの分野では世界有数のレベルといわれるキングストン大学で学んだことも、“本質を見極める”視点を磨くうえで役立ったという。
「私がイギリスに渡った頃、日本はシンプルなものを良しとする風潮があったんです。私もそういった志向を持っていて、ほかのものを受け付けない頑なさがどこかにあったように思います。でもキングストン大学では、シンプルなものだけでなく、装飾的なものや抽象的な造形も、価値があればしっかり評価されます。さまざまな国の人が集まっていることもあり、あらゆるものを受け入れるストライクゾーンの広さが得られました」
さまざまな価値を認め、強みを探り、本質的な課題解決へと導く――。「長所を生かしていく、伝えていく、つなげていく」を製作のテーマとし、社会貢献を目指す辰野さんの原点が見えたような気がした。