2017.04.25
現地パートナーが教える、ヨーロッパの国際見本市を“攻略する”方法
「日本文化をきちんと伝えたい」。そんな想いを胸に、日本とヨーロッパの企業間をつなぐエージェント・ビジネスコーディネーターとして、メイド・イン・ジャパンの商材の海外販路開拓をサポートする青木千映さん。今回は2017年1月に開催された「メゾン・エ・オブジェ」でのサポートを基に、ヨーロッパの国際見本市を“攻略する”方法を聞いた。
2017.04.25
「日本文化をきちんと伝えたい」。そんな想いを胸に、日本とヨーロッパの企業間をつなぐエージェント・ビジネスコーディネーターとして、メイド・イン・ジャパンの商材の海外販路開拓をサポートする青木千映さん。今回は2017年1月に開催された「メゾン・エ・オブジェ」でのサポートを基に、ヨーロッパの国際見本市を“攻略する”方法を聞いた。
上智大学卒業後、渡仏。パリ郊外のリセ(高校)にて、インターン講師として日本語を教えたことが“日本文化をきちんと伝えたい”想いを持つきっかけになり、通訳・翻訳、コーディネーター、日仏系企業にて輸出入業、広告代理店にてイベント企画等に携わる。2007年に独立し、日本のクリエーションをフランスに発信する「パリ・アート・デビュー」、日本の職人プロダクトを世界に発信するEコマースサイト「Expo Shop Japon」の運営をスタート。フランスをはじめ、ヨーロッパにおける国際見本市・展示会出展のサポートやコーディネートのほか、 経済産業省 Japan Brand エキジビション in Paris (2009年~)、Maison & Objet(メゾン・エ・オブジェ)、Ambiente (アンビエンテ)等、国際見本市の日本ブースのスタッフとしてバイヤー集客、商談、市場調査業務等を実施。日本とヨーロッパの企業間をつなぐエージェント・ビジネスコーディネーターとして、デザイン・ライフスタイル分野の日本製および日本企画製品の海外販路開拓に携わっている。ヨーロッパの専門店・デパート・チェーン店・オンラインストア等の顧客多数。
Paragraph 01
―青木さんは、青森ヒバを使ったオーガニックプロダクツ「Cul de Sac – JAPON(カルデサック-ジャポン)」の海外販路拡大のため、2017年1月にパリで開催された「メゾン・エ・オブジェ」の出展をサポートされましたが、実際にどんな業務に携わりましたか?
カルデサックさんにとって初めての海外進出で、「なにもわからないし、どうしよう」という状況でしたが、オイルやシューケアグッズ、カゴなど、完成品が数多くあり、すでに海外の人に見せられる形になっていたので、新たに商品を開発するのではなく、「販売」の部分に注力しました。「ヨーロッパの人たちにどう売れば良いのか?」という視点で商品を選定し、展示会の準備、展示会中の商談、出展後の営業活動、代金回収、流通といった部分を支援しました。通常は、年間契約でマーケティングや市場開拓戦略から行う形が多いのですが、今回はワンショットで主にパリの展示会シーズンに向けたサポートでしたね。
―展示会のサポートで特に力を入れた点は?
まず、展示は世界観を伝えることが大切です。そこで、商品が映える真っ白でミニマルな空間にして、たくさんある商品群のなかから点数を絞り込み、白いドラム缶に青森ヒバのチップを入れて展示しました。また、カルデサックの強みは、青森ヒバの「香り」なので、ヒバチップを巾着ポーチに詰めてプレゼントして、数日後も香りから記憶のなかでブランドイメージが浮かぶという戦略をとったんです。
―プレゼントの効果はありましたか?
はい。想像以上に“香りの宣伝効果”が凄くて驚きました。「あそこでポーチを配っているから行ってみよう」と話題になり、最終日にはこのヒバチップ入りポーチをもらうためにブースに来てくれた人が何人もいました。「そのヒバチップをそのまま売ったほうがいいんじゃない?」と、アドバイスをくれたバイヤーもいたくらいです(笑)。
Paragraph 02
―ブースに訪れたバイヤーの反応や特徴を教えてください。
多くのバイヤーが訪れてくれましたが、その際に「このブースは何を売っていて、どういう風に展開したいの?」といった質問が凄く多かったんです。日本人だと商品を見ればある程度の使い方などをイメージできますが、海外の人はそれができないので、具体的な使い方を話して納得してもらわないとオーダーにはつながりません。
―その際はどういったことから伝えました?
まずはストーリーを話します。“ヨーロッパの人は歴史が好き”なので、「この青森ヒバは昔から古くから寺社仏閣の建材に使われてきた素材です」とか「樹齢200年の木を使っています」とか。そういったことを伝えると、興味を持って長くブースにいてくれる人が多いんです。歴史に興味がある人が多いことがヨーロッパのバイヤーの特徴ですね。香りに魅かれてブースに来たバイヤーに、実はこういう歴史や物語があり、この香りにはこんな効果があるということを伝えると、「面白そう!」と興味をもってくれます。そうするとバイヤーは「じゃあどうやって使うんだ?」と考えるので、そこで明確な提案を行う必要があります。
―どんな提案をされました?
カルデザックの商品は単なるウッドのプロダクトではありません。ヒバ枝入りのオイルディフューザーやヒバブロックなど、ヒバオイルと一緒に香りを楽しむアイテムが多い。なのでヒバオイルに焦点を当てたいのですが、みなさんヒバオイルにはあまり興味がいきません。「いろんな商品があって、ヒバオイルがありますが、実はこのオイルがメインなんですよ」と、ヒバオイルの存在をしっかり伝えることでカルデサックがどんな商品かを理解してもらいました。
Paragraph 03
―展示会中に展示物などを変更することはありました?
もちろんです。何を売るのか、どういった売り方をするのかはバイヤーの反応を見ながら現地で修正しました。初日が終わった後のミーティングで「ここはこうしたほうがいい」「こうやって売りたい」といったことを伝えて、商品の展示やアピールポイントを微修正するんです。
―具体的に展示会中に変更したものを教えてください。
ヒバチップは小袋に入ったものを3種類展示してたんですが、それだけだと何かわからないんですね。とっつきがいいのはドラム缶に入ったチップで、それと同じチップの小袋は見てくれるので、じゃあほかの2種は引っ込めてもいいかとか。また、チップから形状を変えるとあまり見てくれないこともわかりました。たとえばHiba Shavings(カンナ削り)やHiba Thread (糸ヒバ)。ヒバチップのイメージから遠いためほとんど見てくれないし、逆に混乱もするので、初めのうちはヨーロッパで紹介しなくてもいいかなといった判断はありました。
―商品を展示会中に絞っていく感じですか。
はい。最初は40点の商品がプライスリストに入っていて、初めての展示にしてはちょっと多いかなという感覚でした。でも逆に、カルデサックの場合は木だけを紹介してもダメだし、ヒバオイルだけでも難しい。両方があってこそ世界観が伝わるので、少し多めの商品があるほうが、ダメならダメでほかのものを用意できるという利点はありました。
Paragraph 04
―今回の「メゾン・エ・オブジェ」出展の成果はどうでした?
驚いたことに初めての出展にもかかわらず、コスメの大手チェーンやアメリカやスイスの大手デパートなど、大手の会社が注目してくれたんです。と同時に、環境やエコ、倉庫の場所や輸送手段なと、40項目くらいの非常に細かい質問をされました。そこまでの大手は想定外だったので細かな質問に対しての準備はできていなかったのですが、それでも今もコンタクトが続いている状態です。「OEMでうちのブランドとしてつくれないか」という声もいただきましたが、やはり最初はカルデサックのブランドとして売るのがベストだと考えています。
―では今後の交渉は大手が中心に?
いいえ。大手だけではなく、もともと届けたかった高感度なコンセプトストアのバイヤーもたくさん来てくれました。はじめの一歩としては、いきなり大手を相手にコンテナ単位の話をするよりも、カルデサックのことが好きでファンになってくれて、コンセプトを理解してお客さんにそれを説明しながら売ってくれるような、そういう長く付き合ってくれるところに大切に扱っていただきたいと思います。丁寧に長く続けてくれるところを見つけたい、その意味では今回の出展は大成功でした。
―ちなみに日本の中小企業などが、海外に出展するときに勘違いしがちなポイントはありますか?
……「主観的」になりがちですね。「日本ではこういう使い方をする」とか、「日本ではこう」といった表現が多くて、商品に対する客観的な視線が少ないと感じます。ヨーロッパの人たちは商品に興味をもったとしても、「じゃあどうやって使うのか?」という実用的な部分から入ります。その際に、「日本ではこう使っているけど、ヨーロッパではこんな風に使えますよね」っていう新しい目線が必要ですが、そこが欠けていることが多い。で、なぜそうなるかと言うと、海外のライフスタイルや商品の使用シーンを想像できないから。
―その部分をサポートできるのが現地のパートナー?
そうだと思います。私のような現地のパートナーは、どうすればヨーロッパの暮らしのなかで使いやすいか、どうやったらお客さんにわかってもらえるかといった部分を常に考えています。だからこそ、この商材ならこんなライフスタイルに溶け込んで、こう使えるといった具体例を示すことができるんです。また、現地でバイヤーやユーザーの声を吸い上げて、ここは使いにくいからこう使えばいいんじゃないかと、使用方法を含めて商品をローカライズする提案ができます。
Paragraph 05
―青木さんの会社はフランスに倉庫をお持ちですが、物流の拠点を持つことを重視するバイヤーは多い?
はい。弊社が提携している倉庫がフランスにありますが、バイヤーの立場からすれば「どこから物が送られるのか」が非常に重要なんです。正直、「日本から送る」と言った瞬間にさ〜っと引く人が多い。そもそもヨーロッパのバイヤーは「販売」「流通」「回収」のシステムが整っていない企業との取引には消極的なんです。逆にいえば、ビジネスの体制さえ整っていれば、「即注文」というスピーディな商談も可能です。
―バイヤーが物流の拠点を重視する理由はスピードですか、費用ですか?
まずプライスがわかりやすいですよね。日本から商品を送ると関税や送料などが多くかかる。価格の出し方も「主観的」なところがあって、日本から輸送の送料をちゃんと計算しないで話を進めて、「送料や関税はどのくらい?」と聞かれても、その場で明確に答えられない。だから「100ユーロ支払うはずだったのに、送料や関税がのって最終的に300ユーロ払わされた」といったバイヤーからのクレームが発生しがちなんです。いまヨーロッパから商品を送る場合は、EU内の関税はほぼ撤廃されていて、物流における障害はほとんどありません。EU内で商品を移動させる際は、陸送コストのみがかかるだけ。ヨーロッパ内に代理店を持たないかぎり、日本のようなヨーロッパから離れた国からの出展は、それだけで不利になってしまうのが現実です。
―実際に展示会でオーダーをもらって即納品というケースがありますか?
過去に展示会の4日後に「商品まだ来ないの?」と、言われたことがあります(笑)。展示会のときに現地に商品の在庫がないと、たとえオーダーがとれても、急いでいるバイヤーの受注は逃すことになります。基本は展示会の前に見込みの在庫をヨーロッパに入れておくのがベターで、そうすることで急な対応も可能になる。
―そもそも在庫がない状態で展示会に出展するのはチャンスを逃している?
そうです。ただ、最初はどの企業もそうなんです。カルデザックの場合は注文を受けたときにまだ在庫がなかったので少しお待たせしたのですが、それでも待ってくださるお客様がいました。
―展示会後のアフターフォローはどのように?
展示会が終わり、納品した後の次の一歩をカルデサックさんに相談されました。そこで、ヒバチップや展示会のイメージ、パンフレットなどを持ち、私が一ヶ月くらい現地で販促活動を行ったんです。それ以外にも各種報告書の提出や、回収・送金などを行なっています。また、どんな店が買っていて、どれだけ売れていて、どういうリクエストがあり、今後こういうオーダーが来るかもしれないといった、次の展望までを含めた報告書を提出しています。
―青木さんのよう現地パートナーと組むと、事業者が海外に行かなくても物事が進んでいくのが魅力ですね。
はい。フランスに住んでいて感じるのですが、アニメやコスプレ、寿司、ラーメンといった日本の商品・サービス・文化はすでにヨーロッパで定着していて、一昔前よりも確実に日本製品はヨーロッパ市場に受け入れやすくなりました。それでも、まだヨーロッパでお目にかかることのない、素晴らしい商材が日本各地には眠っています。そういった商材をもつ事業者が世界に届けようと挑むときに、基本ポイントを押さえた準備とフォローがあれば、驚くほど成果は変わります。私は「日本文化をきちんと伝えたい」という気持ちで、これからも海外進出を望む日本の企業を支援していきたい。それが自分の使命だと思っています。
TEXT:藤井たかの