2017.04.25
“日本のモノだけを集めた”オランダの展示会に見る、海外進出の突破口とは
オランダに移住して17年、ヨーロッパでの新たな日本プロダクトの価値とマーケットの創造を目指して、日本のモノづくりを紹介する展示・即売会「MONO JAPAN」を主催する中條永味子さん。そんな「MONO JAPAN」の取り組みから、日本プロダクトが海外に進出する際の突破口を探る−−。
2017.04.25
オランダに移住して17年、ヨーロッパでの新たな日本プロダクトの価値とマーケットの創造を目指して、日本のモノづくりを紹介する展示・即売会「MONO JAPAN」を主催する中條永味子さん。そんな「MONO JAPAN」の取り組みから、日本プロダクトが海外に進出する際の突破口を探る−−。
日本で広告代理店に勤務したのち、2000年にオランダ・アムステルダムへ移住。デザイナーとして広告代理店や旅行代理店に勤務し、様々な文化イベントのオーガナイズに関わるなど企画やPRも担当する。2015年2月にJapan Cultural Exchangeを設立。「刺激になる新しいタイプの機会の創造」をミッションとし、日蘭間でアートや文化、ビジネス、伝統、社会などのテーマをボーダレスに取り扱っている。2016年2月からは日本のモノづくりに特化した展示・即売会「MONO JAPAN」を開催。ヨーロッパ向けのキュレーションと日本のモノづくりを背景からきちんと伝えることに注力し、日本プロダクトの価値向上と欧州での新しいマーケットの創造を目指している。
Paragraph 01
Photo: Studio Frog © MONO JAPAN
―まずは中條さんが、オランダ・アムステルダムで日本のモノづくりを紹介する展示・即売会「MONO JAPAN」を始めたきっかけを聞かせてください。
私はアムステルダムに移住して17年になりますが、日々の暮らしのなかで「日本のプロダクトはいいよね!」という声を何度も耳にしてきました。という割には、日本の製品のどこがいいのか具体的なイメージをもっていない欧米人が多くて……。視察を兼ねて、パリの「メゾン・エ・オブジェ」やフランクフルトの「アンビエンテ」など、大規模な国際見本市に参加しましたが、毎年デザイナーが新商品を発表するような「ファション性の高い場」と感じました。ここに日本の商品をもってくると、ラグジュアリー商材と同様の価格帯になる割には、日常品が中心になります。当然、現地の人は「どうしてこんなに高いのか?」という疑問が湧きますが、その理由がちゃんと説明されていない気がしたんです。日本の商品は、職人の高い技術を用いていたり、ユーザー目線でプロダクトが凄く丁寧につくられていたり、さまざまな技術と知識を集約した価値がありますよね。
―そういった日本プロダクトの背景がちゃんと説明されていないと?
「はい。オランダは日用品にお金をかけることはあまりないので、日用品なのに価格が高いのであれば、その理由をきちんと伝える必要があります。また、大規模な見本市はディストリビューターやバイヤーが訪れるB to Bが中心です。彼らが日本のモノづくりの背景をきちんと理解したうえで購入して、小売店やユーザーに伝えてくれるのかに疑問を感じました。日本のプロダクトの価値は日本人が訴求したほうが伝わるのではないか? そして、海外に暮らしている自分なら、オランダ人やヨーロッパの人のライフスタイルや感じ方もわかる。これらの理由で、通常の展示会ブースよりもゆったりした空間で、丁寧に日本のモノづくりの歴史や背景、製法や楽しみ方を伝える展示・即売会「MONO JAPAN」を、2016年2月から開催しています。
Paragraph 02
―「MONO JAPAN」は一般のユーザーもその場で展示品を購入できるB to Cの展示会ですが、その狙いは?
B to Bだけでなく、B to C向けのイベントにすることで、裾野が広い日本のファンを育てていきたいのです。いまはエンドユーザーの絶対数を増やし、「日本のプロダクトが家にある」という状況をつくることが大切だと思います。というのも、B to Bの方たちは売れるものじゃないと仕入れません。だからこそ、B to Cを入り口にして多くのエンドユーザーが日本の商品の価値を認めれば、彼らが動くと思ったんです。同時に、参加された出展者がじかにエンドユーザーと話すことで、マーケティングやコミュニケーションの手法などを学べる機会にしたのです。
―「MONO JAPAN」はアムステルダムのホテルで行われていますが、その意図は?
「MONO JAPAN」が開催される「ロイドホテル アンド カルチュラエンパシー。Lloyd Hotel, Photo: Tsuyoshi Yamada (Sfect) / © MONO JAPAN
カルチャーの発信地として知られ、世界からクリエイターたちが集まる「ロイドホテル アンド カルチュラエンパシー」を会場にして、大小さまざまな客室で展示を行いました。これは“アムステルダムのライフスタイルの擬似空間”といえます。そこに事業者が展示して、商品を置くことで、現地のライフスタイルやインテリアなどをリアルに体験してもらうことができる。ユーザーとじかに話すことで、自分たちの商品はヨーロパの生活のなかでどう見えるのかをリアルに感じることもできるんです。
草木染め製品「kitta」の展示 Photo: Studio Frog © MONO JAPAN
―実際の反響はどうですか?
初年度は日本プロダクトの紹介という形で、入場料無料にして3日間開催しました。18の出展者が参加してワークショップやレクチャーも行い、入場者数は3日間で4800人。お客様からは「こんな展示会は初めてだ、とても楽しかった」という声を数多くいただきました。出展者からも、エンドユーザーのリアクションを目の前で見ることができたのが貴重だった、といった声をいただきました。2017年2月に開催された第2回では、入場料を設定して4日間開催して出展者数を拡大。前回、好評だったワークショップを増やして、日本プロダクトの文化的な側面を打ち出しました。また、1月下旬のパリ、2月中旬のフランクフルトの見本市の間にあたる、2月初旬に「MONO JAPAN」を挟むことで、出展者がパリ→オランダ→フランクフルトと一度の渡欧でまわることもできる。ヨーロッパ各国の展示会をまわるうえで、利便性の高さも魅力のひとつだと思います。
Paragraph 03
―「MONO JAPAN」では陶磁器、テキスタイル、刃物、和紙、漆器など、日本の伝統工芸をベースとしたプロダクトを数多く扱っていますが、出展する企業やプロダクトについてどのように理解を深めていますか?
屋根裏の客室をアレンジした「List;」の展示。Photo: DANIËLLE REIZEVOORT / © MONO JAPAN
会場には多くの来場者が訪れ、前に進めないほど混雑したことも。Photo: Hiroshi Ono / © MONO JAPAN
自分が産地に行って、見て、聞いて、体験しないと他人に良さは伝えられないので、できるだけ産地に行くようにしています。そこで、メーカーの方や職人さんにお会いして話を聞いて、モノづくりの背景を感じるんです。また、現地に行くと、生産規模の縮小や職人の高齢化など、産地の抱える問題も見えてきます。日本の職人がどんどんいなくなり、知識や技術がその人たちとともに永遠に消えていくのは、とても尊いものが失われているのだと感じています。私は単に産地に行って物を見るのではなく、その土地が抱える問題や歴史を踏まえたうえで、プロダクトが紡ぐストーリーを考えたいのです。
―その後はどういう行動に?
自分が感じた感動をオランダでそのまま伝えるようにしています。そして、現地で見て聞いた産地でのことをいろんなショップで話をして、商品や職人の写真を見せてどういう反応をするのかをリサーチしたりします。同時にその商品がヨーロッパでどう販売されているのか? どんな競合商品があるのか? 価格帯はどうなのか? 売れている商品がある場合はなぜその商品が売れているのか? などをリサーチ。そうやって、産地に行って深掘りしたプロダクトを、ヨーロッパでどんなストーリーで伝えるのか戦略を練るんです。
Paragraph 04
―「MONO JAPAN」のWebサイトは非常に美しく作り込まれていますが、そのあたりも意識されていますか?
もちろんです。私が「MONO JAPAN」をやっている意味もそこにあって、現地に住んでいる人間じゃないとわからないことが多々あるんです。たとえば、オランダはグラフィックに凄く力を入れている国なので、グラフィックが弱いと、その時点で値踏みされて「MONO JAPAN」に来てもらえない可能性があります。ビジュアルロゴひとつとっても、ヨーロッパの人がいいなって思える美しいものにすることがとても重要で、オランダでは入口であるグラフィックで勝負が決まると言っても過言ではありません。余談ですが、日本には可愛らしいテイストの商品が多いですが、オランダには可愛らしいものが少ないので、テイストとしてわからない。だから日本から可愛らしい商材をもってきても売れにくいんですよ。
―なるほど。ほかに日本の企業が海外に販路拡大する際に、足りていない点は?
海外での“見せ方”は日本が足りてない部分だと思います。「日本から来ました」というのがアイデンティティになっている見せ方が非常に多い。日本とかを超えて「この商品が好き!」と思える強い商品がヨーロッパの市場には必要で、そういったものが日本にはたくさんあると思うんです。「MONO JAPAN」では、日本という入口から入らなくても商品自体から入ってもらえる商品を集めて、消費者やバイヤーにその背景や物語を伝えています。
Paragraph 05
―ちなみに、日本の中小企業が海外の販路拡大をする際に、中條さんのような現地パートナーと組むとどんなメリットがありますか?
ヨーロッパの人たちの生活様式は日本のそれとはすごく違うので、現地で仕事をしている人間じゃないと、ライフスタイルは見えてこないし、細やかなネットワークはつくれません。海外に販路を拡大するためには、「どんなターゲット層がいて」「どういうお金の使いかたをしていて」「こういう場所に遊びに行く」といったことを知る必要があります。アムステルダムとベルギーでもマーケットがぜんぜん違うんですよ。たとえば、オランダではいま消費をネットでする方がとても増えています。そもそも商品のクオリティを吟味する文化があまりなかった国なので、合理的なネットのオンラインショッピングに流れる人たちがとても多い。そんななかでどう日本のプロダクトを売ろうかと思うと、かなり戦略的にやらないといけない。お店からしたら、パッと現れた日本の商品を「どこに置いたらいいのか?」「どう売ったらいいのか?」もわからない。その部分を提案するときには、現地パートナーの知見が役に立ちます。
―何故こんな質問をするかというと、実は日本の中小企業の方々はお金を払って現地の方々と組む発想が少なく、自分たちだけで海外進出してうまくいかないケースもあって……。では逆にパートナーと組まないメリットは?
う〜ん、ぜんぶ自分で行う必要があるので、苦労がすべて自分の経験値になることでしょうか。ただ、現地での体験を経験値に変えるためにはある程度の英語力が必要で、スムーズにコミュニケーションがとれるようになってからじゃないと難しいと思います。経験値を得られるメリットがありますが、そのぶん自分自身をある一定のレベルまでもっていくために努力や時間、お金が必要になるかなと。
―最後に中條さんが現地パートナーとして、今後、力を入れていきたいことを教えてください。
歴史や文化を重んじるヨーロッパで、日本のモノづくりのストーリーを共有することはとても大切なことです。だからこそ私は、出展者とプロダクト、来場者が間近で出会い、モノの向こう側に見える歴史や美意識、価値を共有する場として「MONO JAPAN」を開催しています。今後も日本企業のヨーロッパ進出の受け皿になったり、伝統工芸の復興を手助けしたりと、日本とオランダをつなげて、発展性のある場をつくっていきたいと思います。
TEXT:藤井たかの