2017.08.07
日本企業が勘違いしがちな、5つのポイント
ジェトロの専門家が警告する危険信号とは?
ジェトロ(日本貿易振興機構)でデザイン産品・伝統産品分野の専門家として活躍している草野信明さん。海外進出を目指す中小企業には、共通して勘違いしているポイントが5つあるという。それぞれの理由を見ていくと、逆に「どんな姿勢で海外進出に臨むべきか」が炙り出されていく。
2017.08.07
ジェトロの専門家が警告する危険信号とは?
ジェトロ(日本貿易振興機構)でデザイン産品・伝統産品分野の専門家として活躍している草野信明さん。海外進出を目指す中小企業には、共通して勘違いしているポイントが5つあるという。それぞれの理由を見ていくと、逆に「どんな姿勢で海外進出に臨むべきか」が炙り出されていく。
青山学院大学経済学部経済学科卒業。(株)エム・シー・リビングで良品計画など多数のブランドのマーチャンダイジングを担当。2006年に独立し、(株)クレアツォーネを設立。2007年よりジェトロ(日本貿易振興機構)の輸出有望案件支援事業の専門家として活躍中。「TEORI」「縞縞」「HAGIHARA」「角館 伝四郎」「中島重久堂」など多数の企業の海外進出を支援している。
Paragraph 01
「小売価格はバイヤーが決めるものだから、知らなくてもいい」と思っている企業は少なくありません。「いくらで売っているんですか」と聞いたところ、「何を言っているんですか、海外は価格を決めちゃいけないんですから、知りませんよ」と言われたこともあります。
確かに、最終的に価格を決めるのはバイヤーですが、それを知らないのに売上が伸びた、落ちたと判断するのは容易ではありません。時には、バイヤーが不当に安い価格で売ってしまうこともあります。私は推奨小売価格(RRP=recommended retail price)を設定することをおすすめしています。RRPを設定するには、物流や流通を学び、物流費用、関税、中間業者や小売業者のマージンなどを把握する必要があります。適正なRRPが設定されていれば、バイヤーにとって小売価格を算出する手間も省けますし、企業が物流や流通を把握しているという安心感を得られますので、当たり前ですが買いやすくなります。
Paragraph 02
とりわけ、海外展示会に出展するときにこう思い込みがちです。「数百万円の経費をかけるのだから、手持ちの商品をすべて見せたい」「全部展示すれば、どれか売れるだろう」というわけです。
気持ちはわからなくもありませんが、「どれが当たるかわからない」時点で、実はすでに負け戦なのです。ターゲットも絞り込めておらず、そのための戦略も練っていないわけですから。仮にうまくいったとしても、それはラッキーパンチに過ぎません。戦略もなしに当たっても、ノウハウとして残りませんから次に生かすこともできません。
万一失敗しても、仮説を立てて戦略を練ったのであれば、ノウハウとして残ります。どこで間違えたのかを検証できるので、必ず可能な限りの仮説を立てて、商品を絞り込みましょう。少ないほうが、そこに力を注ぎ込めますので、適確な戦略を練ることが可能になります。
Paragraph 03
実績が豊富なメーカーほど、こう思いがちです。「実際に使ってもらえれば、見てもらえれば必ず良さがわかる」というわけです。確かに、優れた機能美を持つプロダクトは、それだけで売れることもあります。しかし、継続的に売上をキープしているブランドは、モノづくりをしっかりしているのと同じくらい、「伝える」ことに力を入れています。エルメスしかり、ルイ・ヴィトンしかりです。
たとえどんなに素晴らしいプロダクトであっても、知ってもらえなければ、興味を持ってもらえなければ、手にとってもらえなければ何の意味もありません。知ってもらい、興味を持ってもらうために必要なのは、やはりビジュアルです。特に、ライバルが数百社集まっている展示会では、1000の言葉を費やすよりも、1つのブースデザインであり、1枚の写真のほうがインパクトを与えるものです。自らのプロダクトに自信がある人ほど、PRを軽視しがちですが、効果的な演出をするためにはグラフィックデザイナーやカメラマンといった専門家のサポートが欠かせないことは覚えておいてください。
Paragraph 04
予算がないのは、もちろん理解できます。しかし、社内に英語を話せる人材がいるならばともかく、まったく誰もいない状態で、海外のバイヤーと取引を成立させるのは至難の業です。スポットで1回売り切るだけならばなんとかなるかもしれませんが、継続的にビジネスを行っていくのは非常に難しいでしょう。
バイヤーとコミュニケーションを図らないと取引を結ぶまでに至りません。取引を結べなければ売上は立ちませんから、いつまで経ってもスタッフを雇うことができず、売上も伸びないのです。
もちろん、かけられる予算は企業によって違うでしょう。でも、たとえ2万円しか予算がなくて、アルバイトスタッフを1ヵ月に2時間分しか雇えなくても、その範囲でできることをやらないと、突破口を開くことはできません。Skypeミーティングなどで2時間をフルに使い、現地バイヤーとコンタクトをとってもらえば、少しずつでも商機は広がっていくものです。
Paragraph 05
「せっかくの引き合いだから大切にしたい」「もうチャンスはないかもしれない」と考えてしまい、すべてのバイヤーの注文を受けてしまうのは危険です。
「なぜ受注してはいけないの?」と思うかもしれません。ここで気付いていただきたいのは、「すべてのバイヤーがあなたのプロダクトの価値を理解してくれるとは限らない」ということです。中には、いきなり想定した半額の値段をつけて、ネットで売りさばいてしまうバイヤーもいるかもしれないのです。あるいは、まったくプロダクトの世界観と合わない売り場に陳列されてしまう可能性もあります。ネットで安値をつけられたら、それ以上の値段で売るのが困難になりますし、世界観と合わない売り方は価値を下げこそすれ、上げることはありません。
プロダクトの価値を下げるメリットはどこにもないのですから、バイヤーはしっかりと選ばなければならないということです。では、どうやって選ぶかといえば、コミュニケーションを深めるのが一番の方法です。手っ取り早く会話のキャッチボールを進めるのに有効なのが、「ホームページを見せて」と聞いてみること。しっかりとつくり込んでいれば得意気に見せてくれますし、どんなショップを展開していて何を大切にしているのかもすぐにわかります。もし見せるのを渋るようなら、「言っていることと違うのかも」という判断材料にもなりますから、聞かない手はありません。
そもそも日本では、商談というとすぐ価格交渉をして決めてしまいますが、海外は会話のキャッチボールを楽しむ傾向がありますので、気になることはどんどん質問しましょう。「なぜうちの商品がほしいの?」「おたくのコンセプトは?フィロソフィーは?」といった質問を投げかけて、合わないと感じたら断ればいいのです。
また、せっかく良い付き合いをしていたショップがあったのに、隣のショップに売ってしまってクレームがつき、取引が終わってしまったケースもあります。事前にグーグルマップで場所をチェックするだけで防ぐことができたのに、もったいないとしか言いようがありません。ともかく、引き合いがあったからといって即決せず、十分に相手のことを知ってから取引を結ぶことをおすすめします。
PHOTO:坂野則幸 TEXT:高橋秀和