「ナガサキリンネ」は、長崎で暮らす人に向けて長崎の魅力を伝えていくイベント。“より豊かな暮らしを作っていけるように”という思いが込められており、同様の志向を持って訪れる来場者が多い。そうした人たちに対して、大山さんはあえて茶葉の販売を封印し、ドリンクとしてお茶を販売した。
「『お茶飲み処 茶楽』もそうですが、“急須離れ”といわれている中で、丁寧にきちんと淹れたお茶がどのように受け止められるのか知りたかったんです。ですから、急須で淹れたものだけでなく、ティーバッグで淹れたものなどバリエーションを用意して、値段も変えました。そうしたら、少し値段が高くても、急須で淹れたお茶が一番売れたんですよ」
お茶の質だけでなく、正しい淹れ方を伝えることも重要だと再確認した大山さん。「そのぎ茶」のテストマーケティングにもなったこの場は、ある人物との出会いも生み出した。オランダで日本のモノづくりに特化した展示・即売会「MONO JAPAN」を主宰する中條永味子さんだ。
「『ナガサキリンネ』に初めて出展したのが2014年の11月だったのですが、翌年の2016年2月に『MONO JAPAN』を初開催されるということで、ぜひ出展してほしいと声をかけてもらいました。香港で、そして日本国内でのお茶に対する反応がわかったので、ヨーロッパで日本茶がどのように受け止められるか興味がありましたので、参加したいと思ったんです」
すぐ前向きに検討をはじめた大山さんだが、単独の出展にはためらいがあった。
「お茶の世界で評価されるのは、やはり品評会の成績です。品評会は個人名で表彰されますが、必ず産地が頭につきますから、いくら素晴らしいお茶をつくっても1人だけでは意味がありません。東彼杵町の評価を上げるためにも、海外での反応を誰かと共有しておくべきだと考えました」
資金の問題もある。香港には出展したが、ヨーロッパへの旅費はそれよりも高くつくからだ。それに、現地では通訳も雇わなければならない。もちろん、出展料も捻出する必要がある。これらの問題を解決するため、大山さんが導き出した結論は「東彼杵町の事業」として出展するということだった。
「東彼杵町は三方を山に囲まれていることもあり、もともと人口が8,000人程度と少ないんです。お茶の不況もあって人口の流出がはじまっており、町の活性化を目指しているタイミングだったのもよかったですね。町長も、普段から気軽に僕たちの話を聞いてくれるほど熱心なので相談したところ、海外交流事業として補助金の交付を受けることができたんです」