2016.07.25
てぬぐいの世界進出の過程に詰まった。 打って出るためのありとあらゆる知略【後編】
魅せる場と買える場でシナジーを生むという戦術
2014年にフランクフルト、2015年にはパリへ。
そして「BY KAMAWANU」にはある方針の転換と強化がもたらされた。
ブランドを強くし、さらに広めていくために果たして何が行われたのか。
2016.07.25
魅せる場と買える場でシナジーを生むという戦術
2014年にフランクフルト、2015年にはパリへ。
そして「BY KAMAWANU」にはある方針の転換と強化がもたらされた。
ブランドを強くし、さらに広めていくために果たして何が行われたのか。
2005 年~ 2009 年デザインイベント「DESIGNTIDE TOKYO」のディレクターを経て、2009年MIRU DESIGNを始動。プロダクト、インテリア、建築、グラフィックなど、さまざまなデザイナーのネットワークを活かし、企業のブランディングや展覧会、商品開発の企画、プロデュースを行う。1978年東京生まれ。株式会社ミルデザイン 代表取締役、クリエイティブディレクター。カッティングエッジなデザインアイテムやインテリア雑貨などを扱うデザインショップを経て、2005年~2009年デザインイベント「DESIGNTIDE TOKYO」をディレクション。インテリアを中心に、プロダクト、グラフィックなど、さまざまな展覧会や商品開発の企画、プロデュース、PRまでを一手に担う。坂本龍一が代表を務める一般社団法人「more trees」のイベントやプロダクトのディレクション、「Coca-Cola Bottleware」のプロデュースなどを手がける。
Paragraph 01
ヨーロッパの気候風土や服飾文化を踏まえ、「てぬぐい」というユーティリティすぎてむしろ「何に使うものかわからない布」という印象に対して「BY KAMAWANU」で青木さんとトーマス・リッケさんの提案は「スカーフとして浸透させる」というものだった。
てぬぐいの長さを倍にし、普段、スカーフとして使ってもらうことでてぬぐい本来の魅力を伝え、ひいては、てぬぐいそのものを使ってもらおうと目論んでいた。日本のものを、なるべく日本のもののままで伝える。
「最初の2年は、PRの映像と写真のアートディレクションについては、トーマス・リッケの所属するデンマークの『OeO』に任せていました。最初のうちはなるべくトーマスの世界観を引き出したかったんです。彼はプロダクトだけでなくファッション領域も横断できる視点を持っているので、そこを信頼して」
「OeO」がビジュアルを制作していた初期のカタログ
ヨーロッパに馴染みが薄いものだけに、特にコミュニケーションにおいては、むしろヨーロッパのフレイバーを出したほうが、あちらでは受け入れられやすいと考えたのだ。ビジュアル素材の制作はデンマークで、それを印刷物などのデザインに落とし込むのは日本で、という体制をとっていた。
日本側のアートディレクションは、ストリートカルチャーからモードまでに通暁し、コレクションブランドのインビテーションなどで実験的な印刷物を作り出すだけでなく、自身のファッションブランドも展開してきたオオノケンサクさんが担当。日本の伝統工芸をスカンジナビアのフィルターを通し、現地のモデルで撮影されたビジュアルはクールで、でも受け入れられたのは、面白いことに日本のほうで、だった。
「メゾン・エ・オブジェ」や「Ofr.」などで寄せられた感想の多くは、「なぜ日本のものが北欧ナイズされているのか」「もっと日本らしさを出してくれればいいのに」。
「そこで3年目からは日本サイドで全部やるようにしました。日本人モデルを使って、日本/アジアンクールビューティー的なテーマで、日本を打ち出しながらもコンテンポラリーに表現できるようなアートディレクションに変えたんです」
テーマやイメージを刷新した2016年のルックブック
カタログは、オリエンタルな風貌の日本人モデルを起用し、湘南の日本家屋で撮影。欧文/和文を併記し、見せ筋のスカーフのデザインを掲載するだけでなく、てぬぐいの用途も丁寧に説明する画像を制作した。
“cover”“place mat”“scarf”“grip”“dishcloth”“wrap”“assesorry”、そして“OSHIBORI”。ざるに載せられた果物を覆ったり、ランチョンマットになったり、買い物かごの取っ手に巻きつけられたり、瓶をラッピングしたりするてぬぐいのお洒落な写真に、これらのキャプションがつく。
「こっちのほうが、シンパシーを感じてくれる強度は強くなりました。だんだん浸透してきたのか、初年度2年度はパキッとした柄が好まれたんです。グレー系、ベージュ系、黒はベーシックカラーとしてウケがよくて、特にフランス人は黒が好きなんですよ。最初は黒のものも結構多かったのが、ぼかしや手描きなど日本のエッセンスを感じさせる柄にシフトしてきてますね」
Paragraph 02
2度の展示会出展を通じて、世界中のバイヤーからある程度注目されているという実感を得た。なかでも、イタリアとアメリカの人々が積極的だったという。
「ヨーロッパってコンサバで保守的ですけど、新しいものを受け入れる土壌もあるんです。ただ、量でいうとアメリカが圧倒的なんですね。実は『メゾン・エ・オブジェ』を終えて、2015年の夏に『かまわぬ』の加藤社長と、アメリカのリテーラーのネットワークを持っているフォーデザインの松尾拓也さんと、『NY NOW』の視察に行ってきたんです」
NY NOWは北米最大規模の家庭用品、ギフトなどの総合見本市である。年2回開催され、ここもアンビエンテ同様、基本的にプロの集まる展示会だ。そしてちなみに、2016年夏にはジェトロが『ジャパンパビリオン』設置し、日用品やデザイン雑貨の北米販路開拓を支援する、ということを行った。が、青木さんたち「BY KAMAWANU」チームは、そこには参加しなかった。
「その代わりに、アメリカを縦断し、3箇所でフェア展開を行うことにしたんです。これはそもそも『かまわぬ』のお話をおいただいた時から仮説としてあったのですが、2014年、2015年と出展してみて実証できたところなんです。つまり、てぬぐいってバカ売れする商品ではないな、と。日本では普通に浸透していますけど、これが何か、どう使うのか、その意図を伝えるのに時間が掛かるし、どうしたって日本ほど一般的にはなれません。短期間で大規模なプロモーションを行うより、少しずつ丹念に買い手の方々とコミュニケーションをすることが大切だと思うようになったんです」
*1
北米最大規模のホーム/ライフスタイル/ギフト商品の総合見本市
米国・ニューヨークで開催される北米最大規模のホーム/ライフスタイル/ギフト商品の総合見本市。北米各地からバイヤーが来場し、ビジネスに直結する見本市として評価が高い。
NY NOW
米国・ニューヨーク
会場:jacob K.Javits Convention Center
開催:毎年2月、8月
Paragraph 03
バカ売れしない分、きちんと魅力が伝わって定着すれば、長く愛されるようになるだろうし、長く売れ続けることになる。そちらのスタンスにメリットを求めるべきアイテムなのだ、と。
「今、アメリカで組んでいる松尾さんは、同じような考え方の持ち主です。例えば富山県高岡市の、もともと真鍮で仏具を作る『二上』という鋳物メーカーが作った『FUTAGAMI』というブランドのカトラリーやランプをディストリビューションしている。彼はそういう品々を“日本の良き中量生産品”と呼んでいます。工場のラインで作る大量生産品ではなく、手はかかっていながらも一点もののアートではない。そんな良質な製品。どれもバカ売れはしないけれど、品質やものが生まれる背景を信頼してくれているショップの人たちがいて、分かったうえで丁寧に売られていくものばかりです。この人が丹念にコミュニケーションしているリテーラーの土壌があるので、北米についてはお願いできる」
ちなみにドイツは、何度か名前の出てきた「SHUSHU」のサトミスズキさん。
青木さんがディストリビューターを探す際は、ムーブメントが来て瞬発力で売れるものではなく、こうした何十年も売っていくことへの覚悟があるか否かを見極めるという。そこの信頼関係が構築できてこそ、初めてビジネスが始まるのである。
*1
国際見本市のスペシャリストとしても知られる、日本の優れたプロダクトをヨーロッパに紹介するディストリビューター
ドイツ・ミュンヘンにデザイン性の高い日本商品を扱うコンセプトショップ「SHUSHU」を展開。国際見本市のスペシャリストとして知られ、日本企業の出展コンサルを行なうほか、欧州の主要見本市に「SHUSHU」としてのブース出展を行なう。ディストリビューターとしても日本のプロダクトを、ドイツ国内、ヨーロッパ各国のデザインショップに卸している。
サトミスズキ
http://www.satomi-suzuki-tokyo.com/
*2
日本製手工業品の海外輸出などをサポート
日本の工芸品、工業品の海外マーケティングや販路開拓支援を行なう。企画だけで終わらせないをモットーに、事業企画に留まらず、実際に受注を獲得するまでトータルでのサポートを行なう。
松尾拓也(フォーデザイン)
hhttp://www.fourdesign.co.jp/
Paragraph 04
2016年「メゾン・エ・オブジェ」出展時のブース
もちろん、かっこいい理念ばかりを謳っているのではない。今回の「メゾン・エ・オブジェ」出展の際、「JUNKU」という小売店での展開もセットにしたが、これは元からフランスのコーディネーターであるSUKIMA PROJECTの久川史哉さんにオーダーしていたことだったという。
展示と販売の二段重ねは、実は青木さんの得意技なのである。
「デザインイベントに関わることが非常に多いのですが、見せ方を重視しすぎた場合問題になるのは、“売れない”という点。インスタレーションでは振り切った見せ方で、鑑賞するうえで満足度は得られるんですけど、そこで“いいな”“買ってみたいかも”って生じた気持ちの持って行きどころがないじゃないですか(笑)。だから……」
「JUNKU」でPOP UP STOREを展開した時の様子
例えば2012年に行った「Coca-Cola Bottleware」。青木さん自身がプロデュースに関わった「DESIGNTIDE TOKYO」の最終年度で、コカ・コーラとデザインオフィスnendoとのコラボレーションで、コカ・コーラのコンツアーボトルを100%再利用した食器を制作した。
「波打際、さざ波をイメージしてnendoが瓶7000本を砕いて圧巻のインスタレーションを作ったんです。コカ・コーラの瓶から作られた食器だということを感動的に見せながら、シボネ青山店とMoMAデザインストアと西武百貨店のbe my Giftとコンランショップで同時にフェア展開をしました。最終的には国内外の200媒体以上で紹介され、バイヤーにも“販売にもつながる”とアピールできました。リテーラーにメリットがあり、メディアも感化されて、クリエーターの露出も多くなる。この時は最後に、外苑前のシェアードテラスでオリジナルメニューを作ってもらって、実際に体感できるようにしたんです。」
「DESIGNTIDE TOKYO 2012」で発表した「Coca-Cola Bottleware」のインスタレーションと「CIBONE」での先行販売の様子
また伊勢丹新宿本店でウィンドウを鳩時計ですべてジャックした「鳩時計コレクション」。
一般社団法人モア・トゥリーズからの依頼で、気鋭のアーティストやあらゆるジャンルのデザイナーたちに、「森を大切にしよう」というメッセージを込めて鳩時計のカスタマイズをオーダー。ウインドーを見せ筋にしながら、店内にしつらえた200㎡の売り場ではひたすら鳩時計を販売し、青木さんによると、2週間の会期で鳩時計を中心に1,500万円ほどを売ったという。
「単に表面的にかっこいいだけのもは山ほどあるんです。“森を大切にする”というテーマの打ち出しがあってこそ。セールスとPRが立体的にできるというところが我々の特徴。現地の協力者、クリエイターとともにそれぞれがメリットを享受できるような仕組みを作っていくわけです」
2009年伊勢丹新宿本店で行われた「ISETAN × more trees 鳩時計コレクション」
そしてもうひとつダメ押しに、同じくモア・トゥリーズによる「つみきのひろば」。
2015年の秋に2週間にわたって、東京ミッドタウンの芝生広場とガレリアの3階で行われたイベントである。
「隈研吾さんデザインの積み木を、まず東京ミッドタウンの芝生で“積み木だけでここまでやるか!”っていうぐらいのアートモニュメントとして見せ、同時に子どもたちが喜ぶような楽しげな雰囲気で演出して、クリエイティブ関係者も親子連れも楽しめる空間への評価を頂きながら、ミッドタウンのガレリアで積み木を販売したんです。最終的にはTIME&STYLEでも売って、最終的に利益は森に還元されるという仕組みまでしっかりコミュニケーションしたうえで結果を出せました」
「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2015 つみきのひろば」でのイベントの様子
*1
日本文化に関心を持つパリの人にも人気のジュンク堂のパリ支店
日本の書店ジュンク堂のパリ支店。現地に住む日本人だけでなく、日本の文化に関心を持つフランス人も多く訪れる。イベントやワークショップが開催されることもある。
JUNKU
住所:18 rue des Pyramides 75001 Paris
https://www.junku.fr/
*2
ファッション、アートを軸に東京とパリの2拠点を結ぶプロジェクトチーム
東京を拠点とする平澤淳一氏とパリを拠点にしている久川史哉氏の2人によるプロジェクトチーム。ファッションとアートを軸に、ビジュアルディレクション、コンセプトワーク、イベントなど多岐に渡り活動。ブランドのPOP UPや、展示会のプロデュースや販売支援も行なう。
SUKIMA PROJECT
http://sukima-project.com/
*3
音楽家 坂本龍一氏の呼びかけによって設立された森林保全団体
音楽家 坂本龍一氏の呼びかけにより、2007年に発足された森林保全団体。国内外での森林整備、植林、森林保全や、国産材アイテムの企画プロデュース・加工・販売など、森林に関する事業全般を行なう。事務局長を水谷伸吉氏が務める。
一般社団法人モア・トゥリーズ
日本・東京
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷1-9-11フレンシア外苑西103
TEL 03-5770-3969
FAX 03-5770-3896
http://more-trees.net/
*4
森林保全団体more treesから派生して設立され、「都市と森のつながり」の創出を担う
森林保全団体「一般社団法人モア・トゥリーズ」から派生し、2010年に設立、2011年に株式会社化。モア・トゥリーズが国内外の森林保全活動を軸にしているのに対し、モア・トゥリーズ・デザインは都市部でのアウトプットに重きを置く。森の恵みを使ったオリジナルプロダクトの企画・開発・販売、店舗やオフィスなどの空間における木質化、イベントの企画制作などを行なう。
株式会社モア・トゥリーズ・デザイン
日本・東京
住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷1-9-11フレンシア外苑西103
TEL 03-5770-3969
FAX 03-5770-3896
http://more-trees-design.jp/
Paragraph 05
青木さんのやり口のひとつは「クリエイティブとビジネスをどう両立させるか」。世の中に、モノはともかく腐るほどある。そこに埋もれないようにするためには、「モノがある」というだけではいけないのだ。より美しく、よりインパクトを持ち、そのモノのストーリーが見えるように工夫する必要がある。
「それはもしかしたらグラフィックなのかもしれないし、空間での表現なのかもしれないし、モノ自体での表現かもしれない。モノがいいから売れるだろうっていう考え方は、今はもう通用しません。いいモノはいくらでもある。いかに“伝える・届ける”ができるかを重視しないと」
そしてさまざまな立場の人が加わってチームを結成して取り組む。いざという時、最適で最高なチームが組めるように、普段から様々な人と触れ合う意識を持っておいたほうが良いという。
前編のトーマス・リッケさんなんて、その最たる例である。
「僕はたまたまデザインイベントをやっていた関係で、リテーラーやメディア、デザイナー、ショップ、いろいろな方とつながることができました。……といっても、今は誰でもいろいろな人と触れ合うことはできますよ。常にアンテナを張っていれば、なんとなく何かのパーティーに普通にいけますし。そういう時に重視しているのは、人の話を聞くこと。どんなことがやりたいか、夢、野望……問い質すんじゃなくて、パーティーでお酒なんか飲みながら、くだけた感じで(笑)。そして自分のやりたいこともいう。いろいろな立場でいろいろな仕事をしている人がいるから、思惑の輪は全然違うものです。でも高い志を持っている人たちならば、どこかで重なるところが絶対ある。それを見つけるのが僕の仕事。人間って、やりたくないことには力を発揮しないけど、やりたいことには金銭的なメリットを超えて力を発揮してくれます。それを見つけて、ドライブさせていくのが、どんなプロジェクトでも重要です。そこを見つけることができれば、半分そのプロジェクトが成功したと言えますね(笑)」
ちなみに。
自身の野望をきちんと述べておくのも、仕事だという青木さん。せっかくなので最後に語っていただきましょう。
「僕はいつか宇宙に関する総合的な展覧会とグラフィックをやりたいと思ってます。目的とかやりたいことがあって、それを発信していると共感してくれる人が集まって来やすくなる。いろいろな人の力が集まって来たときに、不意に好機が訪れる。今ならそれが実現できそう! っていう。それを蓄積するためには聞き上手、話し上手になって、とにかくいろんな人とコミュニケーションしていくことが大事だと思うんです」
TEXT:武田篤典