アリタポーセリンラボが参加した2015年メゾン・エ・オブジェの佐賀県出展ブース
アリタポーセリンラボのサポートで市川さんがまず手がけたのは、メゾン・エ・オブジェの出展準備。商品の選定から価格設定、資料・カタログ・ウェブサイトの英仏訳など、やることは山積みだった。その間を縫って、パリのターゲット店舗や競合ブランドのリサーチ、磁器の市場調査も実施。出展期間中は、商談や問い合わせの対応にも奔走した。結果、62件の商談を獲得することに成功。出展期間が5日間であることを考えれば上々の成果だが、市川さんはまったく満足していなかった。
「興味を持ってもらえた証として多数のコンタクト先を得たものの、成約まで至ったのはわずか4件でした。商談から成約につなげられなかった原因を突き止めるためヒアリングをすると、タイムリーな対応が求められていることがわかったんです。現地でのフォローができないと、成約まで持っていくのは難しいと実感しました」
日本とフランスでは、ビジネススタイルが異なる。メールで重要な連絡を行うのが日本では一般的だが、少なくともメゾン・エ・オブジェの来場者はメールのチェックをあまり行わないという。「メールを送ったのでご確認いただけますか?」と電話をかけようにも、日本からフランスへの国際電話料金は高額だ。逆に、フランスから日本への電話料金は安価であるため、向こうからしてみれば「なぜ電話をかけてこないのか」と不審に思い、信頼関係が失われていく。サンプルが欲しいとの要望にすぐ応じられないのもマイナスポイントだった。さらに、現地対応ができないことで実務的な部分でも弊害があった。
「日本ならば、受注の段階でほぼ成約したようなものですが、ヨーロッパでは入金させるまでが至難の技なんです。ユーロでのフランス国内振込みに対応できなかったのも痛かったですね。また、磁器製品なので輸送料は実際に運んでみないと読めないところがあったのですが、関税や輸送料を加味した実際の単価をパッと提示できないと社内での検討が進まないということも言われました。お客様の立場に立って考えてみれば、某一流ブランドの食器と日本から送られてくる手作りの素晴らしい食器の単価比較ができないわけですからね」
メゾン・エ・オブジェへの出展で得られた確かな反響。しかし、遠距離と時差によりフォローアップが不十分なために売上が立たない現状に歯がゆさを感じた市川さんは、大きな決断を下す。なんと、フランスへの移住を決断するのだ。
「いろいろな課題が明らかになりましたが、自分が現地にいれば簡単に解決できる問題ばかりなのは明らかでした。ならば思い切って活動拠点を現地に移してみよう、と考えました。12年の滞在経験がある国だけに、生活できる安心感もありました。なんとしても海外で実績を上げるのが私の役割でしたし、第二のキャリアを成功させられるかどうかの瀬戸際でもあったので、失敗するわけにはいきませんでしたから」
実際、フランスに拠点を移してからは着実な成果を挙げている。2度目の出展となった2015年のメゾン・エ・オブジェでは成約数が倍の8件に、2016年には初回の3倍となる12件の成約を勝ち取った。その他、独自のネットワークを活かして有名シェフのレストランなどにも売り込みを敢行。3年間の海外総売上は2,000万円以上にも達した。
「食器の場合、最大の悩みが輸送手段でした。重いので空輸だと商品単価に対して送料が割高になりがちなうえ、ワレモノ対応できない現地の輸送事情の悪さを案じて保険をかけようものなら、輸送料がネックで流れてしまう商談が多発しました。空輸でも送料を抑え、割れの心配なく商品を届けるには国際輸送会社との契約が必須でしたが、輸送量が少ないうちは相手にしてくれません。ならば輸送量がある程度まとまったら出荷させよう、ということで取引先にも納期を待ってもらえれば安く届けられる仕組みを理解してもらい、日本とパリ間の定期便がスタート。最初は毎月定期的に発送できるか見通しは怪しかったのですが、努力の甲斐あって起動に乗り、課題だった国際輸送料込みのユーロ価格リストが完成。見積書が迅速に提示できるようになり、成約まで持ち込める確率もスピードも上がりました」