澤田さんはプロジェクト自体のブランディングを考え、キーパーソンへのヒアリングを開始した。
「事業そのものの提供価値とポジショニングを見定めるために欠かせない工程です。テーマが海外販路開拓やコラボレーション、訪日外国人誘致施策のテーマであってもこの流れは同じなんです」
この工程があるかないかが事業全体そしてストーリーブックの出来を左右する。
「そもそも日本には『伝統工芸品』と『伝統的工芸品』というものがあります。前者は、古くから主に手工業で作られる生活用品や美術品を指すもので厳密な定義はありません。一方後者は伝産法に基づいて国が指定したもの。これ……222品目(2016年12月現在)しかないんです! 指定の要件は“日用品である”とか“主に手作り”とか“伝統的技法”が使われているとかいろいろあって。プロジェクト開始後に海外の有識者にヒアリングしたところ、みんな驚くんですよね。“そんな法律があるのか!”“そもそも222品目しかないのか!”って(笑)」
『伝統的工芸品』はすでにしてある種の権威を持ち、かつ希少。それだけでも海外目線で見ると“欲しいもの”なのである。さらに、より価値ある“ブランド”へと育てることのできる基本条件はある程度揃っていた。
つまり、伝統に守られた優れた技術が使われていて、オリジナルな技法があり、日本の各地域と密接につながっている。まさにそこには“ストーリー”があるのだ。
また、ものづくりの職人はそもそも市場との接点が少ない。だからもとより海外のバイヤーやデザイナーが彼らと接点を持つことなど叶わない。
この事業では、選定基準を「海外市場へ意欲のある方」と設定していた。海外市場が必要としている事業者や産地組合に光をあてることが目的なのである。
こうした背景から、ストーリーブック制作には、以下のような方針が定められた。
1) 個別のストーリーを全面に出すよりも「伝統的工芸品」そのものの制度を伝える。
2) コラボレーションや購入を検討しやすいカテゴリーを選ぶ。
3) 受注生産の可否や見学、外国語対応といった情報を記載する。
そして具体的にプロジェクトは動き始めた。